年間1000億円の経常赤字という全国の健康保険組合の財政課題解決を目指し、「レセプト(診療報酬明細書)点検サービス」を正式リリースします。
シ―ユーシー・アイデータという会社が2020年10月16日に、こんなニュースリリースを発表しています。
健保組合を破滅させるのは診療報酬ではない
年間1000億円の経常赤字という全国の健康保険組合の財政課題解決を目指し、
ここまではいいです。
全国の健康保険組合が財政事情の悪化で苦しんでいることは事実で、数年先にはバタバタと解散が相次ぐのではないかと懸念されているからです。
問題はその後です。
「レセプト(診療報酬明細書)点検サービス」を正式リリースします。
レセプトを点検したら健康保険組合の財政課題が解決するとでも言うのでしょうか?
そんなわけはありません。
レセプトの点検とは、
というようなケースを見つけて、1000円返してもらうというイメージですね。
間違いや故意で過剰請求されている事例はあるでしょうが、「健康保険組合の財政課題解決」ができるほどの規模感とはとても思えません。
たった0.4%の節約効果で財政課題を解決できるのか
この会社もそんなことはきっとわかっています。
ニュースリリースの後半部分に、医療費削減効果のシミュレーションが載っています。
5万人の組合員を有する健康保険組合を例に取って、月間総医療費6億1700万円に対し、レセプト点検サービスの利用で265万円の削減が見込めるとしています。
削減効果を計算します。ざっと0.4%ですね。
0.4%ばかりの費用削減で財政課題が解決されるとしたら、財政状況は悪くない組合です。
そもそも、健康保険組合の財政事情を悪化させている真犯人は、医療費(保険給付)ではありません。
65歳以上の高齢者にかかる医療費の一部は、国から「前期高齢者納付金」「後期高齢者支援金」という名前で健康保険組合にツケが回されます。
みかじめ料を払わされると言ってもいいでしょう。
高齢者医療費の増加にともなってこれら納付金・支援金の額も増加しており、健康保険組合の経費のおよそ半分(2020年度で49.0%)にもなっています。
団塊世代の後期高齢者入りが健保組合崩壊の引き金
2022年度から「団塊の世代」が75歳となり、後期高齢者入りすることによって、後期高齢者支援金のさらなる激増が予想されていて、2025年度の納付金・支援金は経費全体の半分を超え50.7%に達すると見込まれています。
言ってみれば、本業の経費よりも「みかじめ料」の方が支払いが多くなってしまう異常な状況が生まれるのです。
「あるところから取る」発想の終焉 もはや余裕のない健保組合
健康保険組合の財政課題を解決するのであれば、国への納付金・支援金の仕組みを変えなければなりません。
「お金はあるところから取る」という発想で、納付金・支援金の仕組みは作られたと思われますが、もはや健康保険組合にはそんな余裕はありません。
年金や介護保険などに比べると、健康保険は世の中の関心が高いとは言えませんが、制度崩壊の危機が近づいていることはもっと知ってもらうべきではないかと思います。