労働者又はその被扶養者の業務災害以外の疾病、負傷若しくは死亡又は出産に関して保険給付を行い、もって国民の生活の安定と福祉の向上に寄与することを目的とする――。
大正11年に制定された健康保険法の第1条には、健康保険の目的がこのように記されています。
国民の生活の安定と福祉の向上に寄与する、ですよ。心強いですね。
病気やケガで給料が出ないとき、傷病手当金が生活の下支えに
病気やケガ、出産が原因で仕事を休んだから給料が出ない――。
そんな時に健康保険が役に立ちます。
被保険者が病気やケガで労務に服することができなくなり、給料がもらえなくなったときには、1日あたり日給の3分の2相当の傷病手当金を出してくれるのです。
健康保険法に従って細かく説明すると、「療養のため労務に服することができなくなった日から起算して3日を経過した日から労務に服することができない期間」に、標準報酬月額の30分の1に相当する額(要するに1日分)の3分の2に相当する額を支給することになっています。
支給期間は最長で1年6か月とそこそこ長いですから、安心して療養に専念できそうです。
健康保険組合によっては、もっと長い期間支給されるところもあるようなので、そういう事態に立ち至ったら加入している健保組合に相談してみてください。
なお、標準報酬月額というのは、被保険者が事業主から受ける毎月の給料などの報酬の月額を区切りのよい幅で区分した金額で、第1級の5万8千円から第50級の139万円までの全50等級に分かれています。
注意しなくてはいけない点としては、最初の3日は労務に服することができなくても傷病手当金は出ないということです。
労務に服することができなくなってから3日の間に退職してしまったら、傷病手当金は1円ももらえません。
傷病手当金の制度を知らずに、申請をしないでただ欠勤していては大損になってしまいます。
普通の会社では総務部あたりで心得ていて、何らか声掛けなどがあるとは思いますが、自分がいつ病気になったりケガをしたりするかはわかりませんから、「こういう仕組みがあるんだ」ということは知っておいた方がいいですね。
なお、業務災害や通勤災害の場合には、休んで無給になっても傷病手当金の適用はありません。
こちらは労災保険で手当てされることになります。
国民健康保険でもコロナ関連なら傷病手当金が出る
全国健康保険協会(協会けんぽ)と健康保険組合では傷病手当金が制度化されていて、条件がそろえば所定の額が支払われるのですが、国民健康保険はそうではありません。
国民健康保険では、傷病手当金は市町村が出すと決めていれば出すことができる任意給付となっています。
市町村も財政的に厳しいですから、なかなか出すとは決められないという事情があり、国民健康保険では傷病手当金を支給したという実績はありません。
ただし、2020年に入り新型コロナウイルス感染症の拡大を受け、コロナウイルスに感染したり、発熱などの症状がありコロナウイルス感染を疑われたことにより仕事を休まざるを得なかった日については、国民健康保険でも傷病手当金が支給される特例が導入されました。
この特例は国民健康保険の加入者である会社員だけが対象となり、自営業者や学生などは対象外です。
出産の前後には出産手当金
出産の場合は傷病手当金とは多少条件が異なり、出産前後の一定の期間に労務に服さなかったら、出産手当金の給付があります。
一定の期間とは出産の日以前42日(多胎妊娠の場合は98日)から出産の日後56日までの間で、その間の労務に服さなかった日が対象となります。
支給される額は傷病手当金と同じで、1日あたり標準報酬月額の30分の1相当額の3分の2です。
今回は傷病手当金についてざっくり解説してみました。では、また次回。