新型コロナウイルス感染症による航空需要の激減で経営が苦境にある全日本空輸(全日空=ANA)の人件費削減策について、朝日新聞が10月14日に報じています。
一人暮らしのおじさんとしてカツカツの生活をしていますし、CFP認定者でもありますので、こういう記事は気になってしまいます。
記事中、「これまで3割だった厚生年金保険料と健康保険料の従業員負担について、5割に引き上げる提案もしている」という部分があり、「アレ?」と思いました。
1つは、厚生年金保険保険料の従業員負担がこれまで3割だったという点です。
厚生年金保険法には、以下の条文があります。
第八十二条 被保険者及び被保険者を使用する事業主は、それぞれ保険料の半額を負担する。
事業主が多く負担していいよ、にはなっていません。
事業主と従業員は半分ずつを負担することになっているのです。
端数処理があるのでキレイに折半にならないことはあり得ますが、まあその程度です。
健康保険料は会社が半分以上負担してもよい
健康保険料は厚生年金保険料とは異なり、事業主が多めに負担する分には構わないことになっています。
健康保険法には以下のように書いてあります。
第百六十一条 被保険者及び被保険者を使用する事業主は、それぞれ保険料額の二分の一を負担する
第百六十二条 健康保険組合は、前条第一項の規定にかかわらず、規約で定めるところにより、事業主の負担すべき一般保険料額又は介護保険料額の負担の割合を増加することができる
厚生年金保険料も健康保険料も、ついでに言うと介護保険料も、原則としては会社と従業員が半分ずつ負担することになっています。
そのうち、健康保険料と介護保険料については、会社側が半分よりたくさん負担してもいいよ、と定めてあるわけです。
健康保険料の従業員負担は3割なの?
健康保険料の従業員負担が3割だとしても不思議はありませんが、かなり優しい会社だと言えそうです。
全日本空輸健康保険組合は保険料率を同組合サイトで公開していますので、見てみました。
保険料率は標準報酬月額の7.94%ですから、10%を超える健保もあることを考えると、かなり低い方です。
その内訳は事業主が4.8862%、被保険者(従業員)は3.0538%となっています。
従業員負担を手計算すると、3.0538÷7.94ですから38.46%となります。
これを「3割」と呼べるかどうかは微妙なところですね。
ここが2点目です。
なお、介護保険料は会社も従業員も0.9%ずつで折半となっていました。
会社にとっても重たい社会保険料負担
厚生年金保険料や健康保険料などをひっくるめて社会保険料と言いますが、これの負担は従業員側だけでなく、会社にとっても重荷です。
とはいえ、健康保険料の従業員優遇をやめるという話は、少なくとも私は聞いたことがありません。
そのくらい苦しいんだな、と想像はできます。
朝日記者はなぜ誤ったのか
朝日新聞の記者は、ANAの経営陣か労組幹部かは知りませんが、誰かから「社会保険料の従業員負担は3割程度だけど、これを5割に引きあげる提案をしている」くらいの話を聞きかじったのではないかと推察します。
前出の記事の最大のポイントは賃金カット率であり、健康保険料などの部分は言ってみれば付け足しです。
記者も厚生年金や健康保険についてはよく知らなかったのでしょう。
調査報道では名高い朝日新聞だけに残念です。
残念な余韻を残しながら、ではまた次回。